第2回コンクール 優良賞作品


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ダークラテ「もう、優しそうだねって言わない」(辻村深月『パッとしない子』 )


 私には姉がいる。幼い頃に、正月やお盆で親戚が集合すると、必ず姉と名前を間違えられた。
 「〇〇ちゃん。あっ、ごめんね。△△ちゃんだったわね」
 こんなことが何度も続き、最初は「△△だよ!」と言っていた私も次第に面倒になり、〇〇ちゃんで返事をするようになった。

 そして、幼稚園に通うようになり、今度は姓を間違われるようになった。トミタではなくトミダ。「゛」があるかないかだけで、当時は深く傷ついた。相手にとって、私はその程度の人間なんだろうと思った。

 パッとしない子。
 教え子である高輪佑が、あるテレビ番組の収録で母校に帰ってくることになった。佑は、男性グループアイドル「銘ze」のメンバーの一人として、芸能界で人気を得ていた。当時、佑の弟の担任をしていた松尾は、佑のことを訊かれ、そのように答えたのだ。佑の担任をしていたわけではなかったが、彼との接点があると思うと嬉しくて仕方がなかった。

 当時、佑はパッとしない子ということはなかった。松尾の記憶に残っていなかっただけだ。だから、松尾の「目立つような子ではなかった。まさか彼が芸能人になるなんて。」という言葉が佑を深く傷つけ、2人の再会は、感動的な再会にはならなかった。

 人は思い出を美化するという。彼との思い出は、他の生徒とのものだった。そして、元担任だったら知っている事実。弟が交通事故で亡くなっていたということ。それを知らずに松尾は、「弟さんは元気?」と訊いてしまっていたこと。佑は、松尾がいかにダメな教師だったかを話しだす。

 私も佑も傷ついた。自分の存在を認めてもらえていないように感じたのだ。名前を間違える、他の生徒と勘違いをする。こんな些細なことが、人の一生を大きく左右してしまう。相手に興味を持つこと。こんなに簡単で難しいことはない。

 以前、友人から彼氏を紹介されたことがあった。私は、何といえばいいか分からずに、「優しそうな彼氏だね」と言ったことがある。もう少し、相手の良い部分を探せなかったのか。今更後悔してももう遅い。

(831字)(31歳、女性)


 ●使用図書


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