第14回コンクール優良賞作品


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中野楓「大人になってからが面白い」(那須正幹他『ズッコケ三人組と学校の怪談』)


 小学生の頃、先生に勧められてたくさんの本を読んだ。「時間があって頭が柔らかい今のうちにたくさん本を読んでおきなさい」 おそらく多くの人もこう言われたに違いない。そして私も、それなりの数の本を読んだ。

 ただ、子ども心に「児童書」が苦手だった。子どもの想像力を搔き立てる、そういう謳い文句が苦手だったのと、私は雪国の農村出身。フィクションの世界と現実の世界のギャップがあり過ぎて、いくら本の帯に「今時の等身大の小学生を描きました」と書かれても、何一つ自分にマッチする世界がなかった。
 だからと言って、星新一や宮沢賢治の面白さも分からなかった。なので、専ら伝記や昔話などを読んだ。

 読書自体は好きだったので、学校の図書館にどんな本がどこにあるかを把握できるほどには図書館にも通っていた。小学生向けのシリーズものもタイトルだけは知っていた。その中の1つが「ズッコケ三人組」シリーズである。
 私が小学高学年の時点で10タイトルほど出ていたと思う。子ども心に 「これだけシリーズが出ているなら、人気なのかな?」 と思った記憶がある。そして、実際に読んだ。恐らく3作品ほど読んだ。
 完全に面白くなかった。食わず嫌いもよくないし、なんでも読めって先生も言っているし、と思いながら頑張って3作品読んだと思う。当時の私には「こんな子イヤだな」「こんな町あるわけないし」「なんでそうなっちゃうの???」というお話だったように思う。とにかく、何もかもが全く面白く感じられず、「このシリーズは知っています」程度の作品となった。

 それから30年。雪国の農村出身の子どもは色々な過程を経て、なんとか社会の一員として生きている。
 そんな折、読書好きの友人と読書感想文の話題から、子ども時代に読んだ図書の話題となった。友人は私の中ではかなりコアな読書家である。その友人が「ズッコケ三人組シリーズは面白かったよ」と言ったのを聞いて衝撃を受けた。どこが面白いのか、何が面白いのか、幼い私には何一つ刺さらなかった作品である。
 もちろん人の感想、感性はそれぞれである。しかし友人が言った「大人になってから読むと、構成や進行が絶妙なのよ」。これが40歳を超えた私に刺さった。

 世の中は30年前とは大きく変わっている。今はインターネットの時代。検索すればなんでも出てくる。そして、どうやらズッコケ三人組シリーズも完結して、中年として書かれているというではないか。
 今私が読むとしたら中年の方ではないのか? 中年シリーズの方を読んだ方が、もしかしたら今の私は面白いのかもしれない。しかし結果的に、私は『ズッコケ三人組と学校の怪談』を読んだ。

 面白かった! とにかく面白かった!
 大人になって、フィクションとの境界がキチンと分かったからかもしれない。また、小説の類とは違って、一気に読破できたのも爽快だった。そして、物語を俯瞰して読めたこと、気になるところは音読しながら読み返せたことなど、昔と違う読書の楽しみ方をしている自分に気付いた。

 今大人になって読み返してみて、ようやく面白さに気付いたことが感動的だった。主役キャラクター3人のあだ名はもちろん覚えていた。しかし小学生の時は全然身近に感じられなかった登場人物たちが、大人になると逆に主役よりすっと入ってきた。
 「ハチベエは一人っ子だったのか」と思うと、両親がリアルに見えてくる。「ハカセには妹がいたよね」となると、妹がすんなり見えてきて、ハカセと妹が会話しているのがリアルにイメージできたりする。その一つ一つの脳内作業が本当に楽しかった。

 更に調べて、どうやらズッコケ三人組シリーズは1978年にスタートしたらしい。その時点で架空の町の架空の小学6年生。私が小学生だった1980年代後半ですら、少し古いイメージを持って読んでいた。
 
だが、なんと作者の那須先生は2004年まで同シリーズを書いたというのに驚愕した。恐らく小学生のアイテムや学習環境もめまぐるしく変化していたに違いない。それでもシリーズを書き続け、親子2代でシリーズを読んでいらっしゃる方もたくさんいるに違いない。素晴らしいことだと思う。私は子どもがいないので親子2代でシリーズを読むことは叶わないが、時を経て、子どもの私と大人の私で読めたことは本当にありがたいと思う。

 そうだ思い出した。子どもの私が何が一番嫌いだったか。「ズッコケ」というタイトルが何より嫌いだったのだ。子どもを馬鹿にしている、と本気で思っていた。
 那須先生ゴメンナサイ。
 そしてこのタイトルを受け入れることができて、この作品を面白いと思えるまで成長した私の感性を褒めようと思う。

(1,885字)(43歳、女性、東京都)


 ●使用図書


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