第11回コンクール優良賞作品


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永野綾子「本の活力」(杉浦 貴之『命はそんなにやわじゃない』)


 「がんだって」
 そう家族に言われた私は、動転して一番言うべきではない「何で?」と言ってしまった。慌てて私が「どこの?」と聞くと、家族は「腎臓」と言った。

 私の家族が、がんになった。それから私は、がん=死のイメージに暫く落ち込んだ。
 ふと周囲にいる、がんを患った人を思い出した。あの人はちゃんと仕事している。あの人も普通に生活している。がんを患っても元気な人が周囲にいると気づく。

 腎臓がんをネット検索して現れた本が『命はそんなにやわじゃない』。杉浦貴之さんの本である。
 私は、がんを患っても元気な人の本が読みたいのだ。だからお願い杉浦さん今も元気でいて下さい。そう願って、著者の杉浦貴之さんをネット検索すると、ホームページがでてきた。
 最終更新日を確認。更新が止まっていない。生きている。これだけで感動した。ホームページで、がんの方々と共に講演会などもしているとわかった。

 この本を即、読みたいと思った。近隣書店になく町の図書館にあったので、直ぐ借りに行った。
 図書館の棚の分類は、「ルポ 体験記」。この本は、闘病記ではないと実感し、読み始めた。

 杉浦さんが、がんの診断をされた時の気持ちが記してある。私の家族は、こういう思いだったのであろうかと推測する。
 杉浦さんのお母さんは、医師から息子の余命宣告を受けて、医師に信じないと強く言った思いや言葉も記してある。がん患者の家族の気持ちを代弁してくれているかのようだ。

 杉浦さんが、がんをなおす方向にシフトしたのは、両親の思いが杉浦さんに届いたからだ。
 当時の杉浦さんは、余命が早くて半年、2年後に生きている可能性は0%、であった。スイッチの入った杉浦さんの発想力は凄い。
 東京大学に合格する人は、たまたま運よく合格したのではない。合格するだけの勉強をしたからだ。がんを生きぬいている数%の人達も同じ。がんを生き抜いた人達の生き方を学べば道はみえてくる。そう考えて杉浦さんは、医療を受けながら生き抜いた人の本を沢山読んだそうだ。医療は大前提だ。

 そこから杉浦さんは、がんを治そうと、よくも悪くも色々な人達と出会い、多くの失敗体験を経ていく。
 私は第三者目線でその体験を読んで、「杉浦さん それは、どうみても危ない橋を渡る行動ではないでしょうか? その方向へいっちゃダメですよ」と言ってあげたくなる。失敗から学んだ杉浦さんの行動をみて「よかったですね」と応援したくなる。

 「5年生存率は、大学受験と同じと考える。すべてに理由がある。しかし、そもそも5年生存率なんてハナクソ」
 この本では、ハナクソが夢と希望ある言葉になっているし、男性の秘密の世界もユーモアあふれる言葉で表現され、笑いなくして読めないほど。
 その失敗ごとに、教訓として元気になるコツ、元気を遅らせたコツと記してある。この経験をもとに、がんの人達を勇気づける雑誌を自ら作ることへ繋がっていく。

 読み終わると、私は杉浦さん本人に会ってみたくなった。
 講演日程を探してみた。近々わが町にくるではないかと発覚し、読んでわずか1か月程で著者本人に会える機会に遭遇した。
 当日、杉浦さんを見て、「生きてる!」と感動し、嬉しかった。実際に話すこともでき、杉浦さんにとって「大丈夫」が一番の言葉であると教えてもらった。
 その日、本の販売もしていたので、『命はそんなにやわじゃない」を購入し、裏表紙に同じ腎臓がんを患った家族の名前を入れてメッセージを書いて貰った。

 腎臓がんの患者本人、腎臓がんの患者家族。杉浦さんと杉浦さんの家族が、私の家族と私の思いとして重なる。
 著者にメッセージを貰うくらい私も本気で家族を思っていると言う証で、杉浦さんが書いてくれたメッセージの場所に「著者よりメッセージあり」と付箋を貼り、家族に「私のおせっかい」とだけ言って手渡した。
 著者に自分の名前を入れて貰いメッセージまで書いてあるのだから、本人が読まないはずがない。当然読んでくれたらしい。あとは、本人次第だ。

 その後、杉浦さんの本をきっかけに、がんを患っても元気な人の本を探し読みまくった。
 がんを診るあらゆる角度からの医師達の本も読む中で、がんは個人個人で違うこともわかった。
 読んだ本の中には、落ち込む内容が書いてあるものもある。たまに変な夢をみたりする時もある。そういう時は、がんと共存し医療を受けながらパワー溢れる人達が沢山いる、杉浦さんのメルマガやホームページを見ることにしている。
 そうやって私は、がん=死ではない知識を増やしてき、現在も知識増加を図っている。

 私が手にした『命はそんなにやわじゃない』という本は、 読んで現実に繋げて体験し、広げられる世界が沢山詰まっていた。
 杉浦さんがサインと共に家族に書いてくれたメッセージは、「命はやわじゃない」と言う言葉。
 私の家族はがんを患ったが、しっかり医療を受け、今も元気である。
 私も、命はやわじゃないと思う。

(1,989字)(46歳、女性、長野県)


 ●使用図書


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