つん「想像力はリカバリー」(青山美智子『リカバリー・カバヒコ』)
なんだかモヤモヤする。やる気が出ない。このままでいいのだろうか。そんなことを思いながら職場と家を行き来する毎日。
「あーあ、これはもう本に救ってもらうしかない」。そんな時に出会う本はなぜかいつも日常生活にぴったり重なって、自然と心がリカバリーされていた。
「カバヒコに触れると、治したいところが回復するという」 そんな不思議な言葉が記された帯に気を引かれ、手にした『リカバリー・カバヒコ』。そこには世間の波にのまれて苦しんだり、本当の自分を隠したりしてモヤモヤを抱える人たちがいた。
帯の通り、その登場人物たちが公園にあるアニマルライドであるカバ、「カバヒコ」の頭や耳、足など自分が痛みを抱えていたり治したいところを触り、リカバリーしていく物語だ。
わたしは、社会人4年目を迎えた25歳。昨年の9月に新卒で入った職場を辞め、新しい職場に勤め始めてから半年が過ぎた。
新卒で入った会社を辞めた理由をひとことで表すなら「パワハラ」だ。辞めてからもうすぐ1年が経とうとしているのに、昨日のことのようにわたしに投げられた言葉や態度は思い出され、トラウマになっている。
今の職場はそんなことをする人は1人もいない、むしろ働きやすい会社だ。にもかかわらず、元上司の言葉を思い出してはソワソワしてしまう。「気が利かないと思われる。気に入られていないと酷い態度を取られる。ミスしたらどうしよう」 そんなことを考え、そんなことを頭の中でぐるぐる思わせる元上司にイラ立ち、それでも何もできない自分にモヤモヤする。新人だからといって甘えてていいのか、もっと職場の役に立たないとと不安になる。そんな毎日に気疲れしていた。
そんなわたしの心を軽くしたのはカバヒコ、ではなく、登場人物をカバヒコに導くクリーニング屋さんのおばあちゃんだった。
「不安っていうのは、まだ起きていないこととか、他人に対して抱くものだろ。それを思い描けるっていうのは、想像力がある証拠。心遣いも思いやりもすべて想像力だからね。不安がりなあなたは、きっと優しい人だと思うよ」
思わず涙がこぼれた。狭い世界で物事を悪い方にしか考えることができなくなっていた日々。人と話すことにすら疲れていたわたしにおばあちゃんはとても優しい言葉をかけてくれた。
世の中にはモヤモヤがたくさんある。思っていても言えないこと、やりたくてもできないこと、見栄を張ってしまうこと。
今の時代、誰とも喋らなくても誰かの意見が発言が目に見えてしまう。それはその人の想像力、それを受け取ってどう思うかはわたしの想像力。わたしが元上司から受け取った想像力と元上司がわたしに与えたかった想像力は別物で、きっとどちらにも優しさはないのだろう。
この時代を生きていく中で優しさだけを受け取ることは難しいけど、不安=想像力って思うだけでなんだか、心が軽くなった気がする。想像力は自由で誰かに話したくなるくらいワクワクするものなのに、不安っていう言葉に変わるだけで急にマイナス味を帯びる。だから不安を感じた時にそこから想像できることだけを考えていけば少しは肩の力を抜いて過ごせる気がした。
人間として生きているだけで疲れることもある。人と話したくないこともあるし仕事に行きたくない時だってある。そんな時は本の登場人物がガバヒコの頭や耳や足を撫でて自分を労ったように、自分で自分を労ったり周りの人に労ってもらったり、たまには周りの人を労ったりしながら、先のことじゃなくていまの自分の気持ちを大事に生きていこうと思う。
(1,443字)(25歳、女性、鹿児島県)
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