第17回コンクール優良賞作品


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蜜柑「あの子に『光のとこにいてね』と言えない」(一穂ミチ『光のとこにいてね』)


 この本は、高校時代の友人が私の二十二歳の誕生日にプレゼントしてくれた。
 まず私は、あの子に謝罪をしなければならない。本当は一度読んだことがあったのに、読んだことがないと嘘をついてしまってごめんなさい。

 二人の主人公、結珠と果遠の関係性は私たちと似ても似つかない。彼女たちのように幼いころ、運命的な出会いを果たしたわけでもないし、正反対な境遇に育ったわけでもない。幼いころから似たようなルートを歩き、たまたま高校で同じ地点に立っただけで、また別の似通ったルートに離れていく。私たちは長い人生のほんの一瞬を共有しただけの、取り留めのない関係でしかない。
 結珠と果遠が羨ましくて仕方がなかった。私も彼女たちのように、あの子だけを想って「光のとこにいてね」と言えたらいいのに。私はあれほど純粋で全力の愛を誰かに向けることができない。
 読了後、二人がどうしてあれほど惹かれあえたのか考え込んでしまう日が続いた。互いの傷や秘密を共有していたからなのか、正反対の立場だったからなのか、母親との関係に不和を抱える女性同士だったからなのか。
 それらは彼女たちにとって辛い重荷であったと思うが、その重さを知らない私は、それらを背負ってでも結珠や果遠のような関係を求めたくなってしまう。しかし、これら全てを背負っても、私は二人のような関係性を築くことができないと思う。彼女たちはいつも互いのことばかり気にかけて自分のことは二の次だが、私はどうしても自分のことばかり考えてしまう。
 あの子に「読んだことがない」と嘘をついたのもそうだ。あの子のためではなく、ただ私が性格の悪いやつだと思われるのが嫌だっただけ。あの子は絶対にそんなことを思わないのに、私は怖くて真実を言えなかった。自分が人にどう思われるのかばかりを気にかけてしまう私は、誰かを真っ直ぐに想ったり、誰かに「光のとこにいてね」と言ったりできない。
 だが、この本をプレゼントされた時に感じた、心が弾むような嬉しさと温かさはきっと純粋で、嘘ではなかったと思う。
 作中のキーアイテムともいえるシロツメクサの花かんむりや防犯ブザー、鳥の羽、制服のリボン。なんの取り留めのないものたちが、彼女たちを繋ぐ大切な宝物だった。
 私の宝物は、この本だ。この物語が、私とあの子を繋いでくれている。
 初読の際も素敵な物語だと思った。しかし、こんなにもこの物語について考えてしまうのは、きっとあの子がプレゼントしてくれたからだ。読書感想文が苦手だった私が何かを書きたいと思ってしまうくらい心を揺さぶられたのは、この物語が私にとっての宝物になったからだと思う。
 この本をプレゼントしてくれたのがあの子ではなくて、また、同じ高校で前後の座席になれたのがあの子でなかったら、きっと別の誰かにこのような想いを抱いていたのだろう。結珠と果遠もおそらく、誰でもよかったのだと思う。だけど、たまたま出会えたのが結珠と果遠だった。そして、私がたまたま出会えたのはあの子だった。私はそれを、運命と言いたくなってしまう。私たちの関係性が取り留めのないものであったとしても、この広い世界でたまたま出会えたことに奇跡を信じたくなる。
 だから、あの子がこの本をプレゼントしてくれて本当によかった。
 この本をプレゼントしてくれたあの子に、いつか「光のとこにいてね」と言えるようになりたい。
 結珠と果遠が二人で一緒に光のとこにいるのは難しい。邪悪なしがらみだけではなく、大切なものも抱えるからこそ、大人の二人は不自由だった。だから、一緒にいることは叶わなくても、せめてあなただけは「光のとこにいてね」と祈りたくなるのだと思う。
 私たちも、不自由の中で生きている。しかし、断つことのできないしがらみの中でも、大切な人には光のとこにいてほしいと願えたら、それはとても素敵なことだと思う。
 だからいつか、私もあの子に祈りたい。「光のとこにいてね」と。

(1,597字)(22歳、女性、大阪府)


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