第3回コンクール 優良賞作品


-Sponsered Link-


タカマリホコ「横道世之介という人」(吉田修一『横道世之介』 )


 横道世之介、18歳。進学のために長崎から上京してきた大学生。ユニークな友人たちに出会い、サークルもバイトも充実させ、恋もする。これといって何か特別なことが起こるわけでもない、ごく平凡な大学生活を送っている。

 世之介の第一印象は、どこにでもいる普通の大学生。しかし今は違う。いそうでいないのだ。お人好しで押しに弱いが、実はちゃんと強い芯を持つ人。単純で、呑気で、時に図々しいが憎めない人。どんなことでも絶望とは捉えず、そのどこかに希望を見出す人。掴みどころがなく、風のような人。まっすぐで心がとても温かい人。なぜか人を魅了する男、それが横道世之介なのである。

 彼の最大の魅力はやはり、どんなことでもスッと受け入れてしまうところだろう。友人の妊娠、性癖の告白、浮世離れしたお嬢様との恋…多くの人ならばきっと少し考えてしまうようなことも、世之介はありのまま受け入れてくれる。

 そんな世之介に、私もいつのまにか魅了されていた。さらには、世之介は古くからの友人なのではないかとまでに、身近な存在に感じてしまっている自分がいた。それは世之介の死んでしまった理由を知ったとき、「世之介らしいな……」と思ってしまうほどに。不思議なことではあるが、これはきっととても自然なことだったのだろう。

 そんな世之介は、私が彼のことを好きなように、多くの人に愛された。彼のことを思い出す友人たちは、自然と顔がほころぶ。
 「世之介と出会った人生と出会わなかった人生で何かが変わるだろうかと、ふと思う。たぶん何も変わりはない。ただ青春時代に世之介と出会わなかった人がこの世の中には大勢いるのかと思うと、なぜか自分がとても得をしたような気持ちになってくる」
 これはある友人が、世之介との出来事を懐かしんだ時に思ったことだ。世之介は何気ない毎日の中でも、関わった人たちの中に何かを残していたのだ。それは特別大きな何かというわけではなく、ふとした時に、頭の片隅から思い出されるようなもの。しかも笑い付きの。そこがまた世之介らしい。

 私は横道世之介という人に出会えてよかったと思っている。きっとそう思っている人は多いのではないだろうか。周りの人にこう思われることは実はとてもすごいことで、そう簡単なことではない。
 世之介に出会えてよかったと思うと同時に、私自身はどうなのかを考えてしまった。今のところ、私と出会えてよかったと思ってくれる人がいる自信はこれっぽっちもない。もっとちゃんと受け入れられたのではないか、もっと親身になれたのではないか、もっとありがとうの気持ちを行動に移せたのではないか……。振り返ると、周りの人たちにもっとできたことがあったなと、反省することが次々と浮かんでくる。

 しかし私はまだ23歳だ。今からでも遅くはないはず。ちゃんと周りの人たちを想い、行動しながら、私らしい毎日を生きたいと思う。そうやっていく中で、いつか私のことを思い出した誰かが、「あの人らしいな……」とか私の笑い話で盛り上がってくれたらとても幸せである。こう思わせてくれたのはきっと、世之介が私に残してくれたもののひとつなのだろう。もしかすると、今の私が気付いていないだけで、まだ残してくれたものがあるかもしれない。それはそれで楽しみである。

 本作を読んで半年ほど経って、本作が映画化された作品を観る機会があった。画面越しに世之介の姿を見たとき、「うわあ、世之介、久しぶり。」と自然に思った自分がいた。半年ぶりではあったが、彼はスルスルスルっと私の心の中に入ってきて、再び笑いと温かい気持ちを運んできてくれた。きっといつ会ってもそうなのだろう。また世之介に会いたくなったら、本作を読もうと思う。

(1512字)(23歳、女性)


 ●使用図書


※掲載作文の著作権は当コンクール主催者にあります。無断での転用・転載を禁じます。


-Sponsered Link-