第3回コンクール 優良賞作品


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さりー「母と娘」(湊かなえ『母性』 )


 『お母さん。』

 深夜2時。本を閉じると、幼い頃の母との思い出がいくつも私の頭を駆け巡った。遠く離れたあの時に一瞬でも戻れるような気がして、私は都会のベッドの中で目を閉じていた。

 私は幼い頃から母の事が本当に大好きな子どもだった。母と少しでも離れる事を恐れていたし、母が仕事へ行く時間になると寂しくて朝から毎日散々泣いていたのを覚えている。しかし、母が「行ってきます」と、私をぎゅっと抱きしめると、まるで魔法にかかったようだった。やわらかい温もりが全身を包み込み、この魔法があれば母と離れていても大丈夫という気持ちになった。そして私だけでなく、母も私の事が大好きなんだと幼いながら感じる事ができた。

 この本に登場する母は母親に愛されたいという一心で生きてきた。決して愛されていなかった訳ではなく、母親の喜ぶ笑顔の為に結婚や子育てもその手段であるかのように選択してきた人である。

 初めは、子どもがいるにも関わらず母親に甘えて執着しているだらしない人という印象だったが、本を読み進めていくうちにこの人自身も母である前に、母親を持つ子どもであることに気づいた。

 私は大人になるにつれ、周囲の目や言葉を気にするようになり、母を求める気持ちは徐々に薄れていった。しかし、成長しても子どもとして母からの愛を変わらずに求めている自分も存在していた。母に褒められると嬉しいし、また頑張ろうという気持ちになる。そう考えると私も登場する母と大して変わらない人間だと思えた。
 そしていつか、私にも子どもができ、親という立場になるかもしれない。その時に母親としての責任や愛は備わっているのか、漠然と不安になった。

 母性とは女性なら潜在的に誰しも備わっているものなのか。出産をすればそれが芽生え、勝手に育っていくものなのか。私はそんな事を考えながら、ある日都内で母親が子どもを殺したという悲惨なニュースを目にしながらぼんやりと考えた。
 お
腹を痛めて産んだ可愛い我が子を夜中に殴り、身体や心を傷つける虐待は小さい命を簡単に奪ってしまう事にもつながりかねない。そんな母をもつ娘もまた、母に愛されたいという思いから何をされても耐え抜き、大切な母を守りながら成長していく。

 私の家庭でも姑の祖母が、嫁である母がいない時に、ちょっとした愚痴をこぼしているのを聞いたことがある。すると、なんだか悔しい気持ちになり祖母に対して、突発的にあまり良くない言葉を発言した事を覚えている。なぜそんな事を言ってしまったんだろうとその後、後悔したが理由なんてなかった。母を守りたいという気持ちは、目に見えない絆で母親とつながっている子どもだからこそ生まれる純粋な感情であると感じた。

 「子どもはいつまでも子ども」という言葉があるように、いくつになっても母親と子どもといつ関係性は変わらない。最近では親子の悲しい事件も多い中、いつの時代でも子どもにとって母親は安らぎや無償の愛を与えてくれる存在である。また現代では様々な母親の形があるが、誰しも母親や母親に似た存在から愛情を貰って今まで生きてきたのではないだろうか。
 そしてどれくらいの人が、人間は母性を求めながら生き続けている事実に気づき、愛を与えてくれた人に感謝をしながら生きているのだろう。

 私はこの本を読んで、大切な誰かを守りたいと感じた時に母性が生まれ、愛してくれた人を想う気持ちによって愛を与えられる側から与える側になるのではないかと思った。そしてそれが、世の中に広がる事で、救われる命や愛される子どもが増える事につながって欲しいと感じた。

 都会は早くも春の陽気を感じる季節になり、母は私の引っ越しの為にわざわざ新幹線で来てくれた。そして帰り際に、一冊の本を手渡してくれた。
私もいつか誰かに、この本を手渡せる日が来るのを願って、そっと本棚にしまった。

(1565字)(25歳、女性)


 ●使用図書


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