しおやなおこ「8歳そして44歳」( 和田義臣、若山 憲『あかべこのおはなし』 )
小学校の読み聞かせボランティアをしている私は、古本屋の絵本コーナーを見ていました。
そして、赤い牛が描かれた表紙、その表情になんだか心惹かれある本を手に取りました。
「あかべこ」……そうか、赤い牛のことか。本を開くとそれが張り子のお土産品であることがわかりました。そして最後まで読むと「ん? これって……読んだことある!」 ハッとしました。
物心ついた頃から私の母は病気がちで入退院を繰り返していました。ひとり家で過ごすことが多かった私は、親戚のお下がりでもらった絵本を読むことが楽しみでした。表紙には、真っ赤な牛。牛さんが自分と同じ真っ赤な遠くの山に向かって進んでいく、というものでした。
大人になった今読んでみると、当時の私が気付けなかったこの本の奥深さがドンッ、ドドンッと私の胸に迫ってきました。
真っ赤な牛は、紙の張り子のあかべこ。歩けるはずもない。だけど分不相応な夢を抱いた。強く願って他力本願、出会う動物たちに協力してもらい、磐梯山に向かって進んでいく。そして、あかべこの強い思いが奇跡を起こしたのか、ついにあかべこは自分の足で歩み始めるのです。
私はこの一見おとなしいあかべこの表情と、奇跡を起こすほどの強い想いとのギャップに、 しばらくあかべこの顔をじっと見つめてしまいました。小さな存在であるあかべこの、大き な大きな強い想い。こんなに深いおはなしだったのか。感動が痛いほど胸にささりました。
私は今、この本を小学6年生に読み聞かせています。もちろん何年生に読んでもいい絵本です。でも私は、6年生の後半戦、10月頃、小学校卒業に向けてもうひとがんばり、の時期 に心を込めて読み聞かせています。
大きな夢を見よう。実現に向けて最初は周りの力を借りながらでいい。ゆっくりゆっくり歩一歩進んでいこう。そして最後は、自分自身の力をふりしぼって「えいやっ!」と踏み出そう、とあかべこの姿を通して伝えたいのです。
今はまだこの本の奥深さはわからなくていい。「あかべこのおはなし」として心に留めておいてもらえれば、いつかそれが前へ進む支えになると思っています。
(868字)(44歳、女性)
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