第3回コンクール 優秀賞作品


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やすよ「大事な人がそばにいること」(こんのひとみ、いもとようこ『いつもいっしょに』 )


 長女を産んでから私は毎日自暴自棄になっていました。何をやってもミルクを飲んでくれない、抱っこしても泣き止んでくれない……。何をどうしてほしいのかまだ言葉を発せない娘に向かって、私は怒ったり泣いたりを繰り返していました。

 ある日買い物の途中で本屋に立ち寄り、手に取ったのがこの本です。私は幼いころからいもとようこさんの絵が好きで、表紙に描かれた可愛らしいクマの絵に、私の心は和みました。
 童心に返ったように夢中になってその本を読みました。子供が産まれてから、本に書かれた字を読んで聞かせる事と子供の反応に集中していてばかり。じっくり自分のために何かを読むということがなくなっていたので、久しぶりに自分だけで本を楽しむことができました。本を読んでいくうちにふと気付くと目から涙が……。自分が本屋で立ち読みをしていることを思い出し慌ててレジへ行き、家でゆっくり読み返すことにしました。

 子供が寝ている時に私はそっと本を開きました。

 「一人ぼっちのクマの家に訪ねてくるウサギ。ウサギは何もしゃべらない。それでもクマは幸せでした。でも時間がたつにつれて、クマはじれったくなります。こんなに相手のことを考えている自分がもどかしく、とうとうその気持ちを伝えてしまいます。びっくりしたウサギは次の日姿を消したのです。後悔するクマは大声で泣きました。しかしそれは夢でウサギはそばにいます。ウサギをぎゅっと抱きしめるクマ」

 私は胸が熱くなり、思いっきり泣きました。そのまま寝ていた娘を抱きしめ、「私はまるでクマだ……。」そう何度も思いました。そばに娘がいてくれるだけで幸せなはずなのに、私は何を心配して何をイライラして焦っていたんだろう。いつも励ましてくれている主人に強くあたって私は罰当たりだ。ほかの子と比べてばかりいて、私はダメな母親だ……、そう思いました。

 好きな人がそばにいること以上に幸せなことなんてありません。阪神大震災を小学生のころに経験した私はそのことをわかっていたはずなのに、そんな大切なことを忘れていました。あの時も家族みんなが無事で一緒に過ごせたことが何よりの喜びでした。大事な人や好きな人がこの世に存在しているだけでも心の支えとなります。

 この本と出合ってもうすぐ9年。私の宝物のこの本は、今では2人の娘のお気に入りです。子育てで困ったときや、主人に対してもですが、大切な人が近くにいることが一番の喜びであるということを胸に刻み、毎日これからも家族一緒に暮らしていけたらいいなと思います。

(1035字)(34歳、女性)


 ●使用図書


◇「アサデス。KBC」(九州朝日放送)様にて当コンクールを取り上げていただき、当作品が紹介されました。


※掲載作文の著作権は当コンクール主催者にあります。無断での転用・転載を禁じます。


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