第14回コンクール優良賞作品


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echelon 「半径三メートル内のもの」(ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー他『風をつかまえたウィリアム』)


 大切なものは半径三メートル内にあるものだと、どこかで聞いたことがある。
 スマホで地球の裏側のことまで瞬時に知ることができる今日、半径三メートルとは視野が狭過ぎないか。私はそう思った。
 しかし『風をつかまえたウィリアム』(原題:”THE BOY WHO HARNESSED THE WIND”)という本を読んで、半径三メートル内が重要だ、という考えはすんなり受け入れられた。

 この本は東アフリカ、マラウィのウィリアム・カムクワンバという少年が、ネットもテレビもない環境から風力発電機を作った実話だ。
 大雨で不作が続き、家にお金がなくなり大好きな学校に通うことができなくなったウィリアムは、図書館の本を読むしかない日々を送る。その中にあった風力発電の本が、彼を発明の道に導いた。
 本を読んで発電所があれば村の生活が便利になるのでは、と考えたウィリアム少年は、限られた材料と周囲の無理解、度重なる失敗を押して、ついに風力発電機を完成させる。その反響は村の中にとどまらず、海外からマスコミや学者がやってきて、ウィリアムは世界的有名人になるのだった。
 ゴミ捨て場にある自転車やプラスチックで風車をつくり、電線を繋いだ家々に電気を供給する。私たちからすればなんでもないことのように思えるが、やり遂げたのが十三歳の少年で、一冊の本のみが頼りだったとなると、話が違ってくる。

 七歳くらいの頃、段ボールで人形の家を作ったことがあった。拙いながらもうまく人形を収めることができ、嬉しかった。次は発泡スチロールを瞬間接着剤でくっつけてブランコを作ろうと思った。しかし接着剤に反応した発泡スチロールが溶けはじめ、辺りに変な匂いが漂い、なんとも言えない気持ちになった。
 その時のことが、この本を読んでいる時に思い出された。あの頃は周りにあるもの全てが遊び道具だった。近所の山で拾った枝や、お菓子の空き箱でへなへなの武器やゆがんだトランシーバーを作っては、兄弟や友人と遊んでいた。ネットがなくても退屈せず(したのかもしれないがそれはそれで楽しんで)、一日中充実していたように思う。

 発展途上国の人々を子ども並だと言いたいわけでは決してない。アフリカ系アメリカ人の自伝や、発展途上国の実話に基づく話を好んで読む私だが、そこには難問に挑戦してやろう、明るくダイナミックにやってみよう、というクリエイティブなチャレンジ精神がある。その生き方は、私自身が人生の問題に取り組む際に、参考になると思っている。
 そういう意味で、この本はまさにクリエイティブなチャレンジ精神を教えてくれる。ともすれば効率に拘泥して延々とネットで情報収集をし、足踏みしがちな私たちの背中をそっと押してくれる力が、この本にある。

 何かを成し遂げたければ、周りのものでともかくやってみること。成功へ至る試行錯誤はそこから始まる。
 半径三メートルが、宝の山に見える一冊だった。

(1,187字)(35歳、女性、愛媛県)
twitterアカウント :@echelon0411


 ●使用図書


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