第9回コンクール優良賞作品


-Sponsered Link-


でし『20年』(香月日輪『ワルガキ、生き霊を追って走る!』)


 小学生の頃に「地獄堂霊界通信」シリーズを初めて読んでから、31歳になったいまでも、好きな本は何かと聞かれれば、同シリーズの名をあげる。
 するとたいていの人はそのタイトルの“幼稚”さからか、「あ、そう・・・」と微妙な反応をする。そして、なんとなくイメージから「超能力系か」はたまた「中二病か?」などと(勝手に)納得してくれるのである。

 しかし、私にとってこの本は、本を超えた、自分の一部とでもいうべき存在である。
 人が生きること、他者と交わること、そして死ぬこと。はっきり言って深い。深いにもかかわらず、心にじゅんとしみる。
 そしてなにより、面白い。文殊菩薩や不動明王の力を借りて悪霊と対峙し、火や風、雷を呼ぶなんて、想像しただけでもワクワクするではないか。

 だが、大好きなこのシリーズの中でも、2作目『悪ガキ、生霊を追って走る!』の中で、長い間、どうしてもわからない言葉があった。次の言葉だ。
 「ほんとうに不幸なのは、気が狂うほど人にほれたことじゃなく、そいつが『気が狂うほどほれる価値のなかったやつ』の場合なのさ」

 愛する男のことを思い詰めるあまり生き霊と化した女。その怨念を救うため、主人公「三人悪」は街を駆け巡る。
 女は愛する男だと思い込んだ登場人物を追い、首だけの生き霊になり、その男が運転するバイクを追うのだ。
 三人悪は霊能力を駆使して空間を見通し、雷を落とし、呪文を唱える。(小学生だった私は、必死にこの呪文を暗唱した)
 しかし説得も虚しく、からだをつないでいた魂の糸がきれ、女は死ぬ。

 先の言葉は、「ひとを愛するって、なんなんだろうなあ。もしおれだったら、そんなふうにされたらさ、すっげえ困るよ」という主人公のひとりに対して、主人公の兄がつぶやいたものである。
 当時の私には、その言葉の意味がわからなかった。ちなみに中学校に入っても高校生になっても、やはりわからなかった。

 大学生になり、仲の良い友人ができた。大きな目をして、背が高く、誰に聞いても美人だと言われる友人だった。
 当然というべきか、彼氏ができるのも早かった。
 はじめは、彼氏とのあれやこれやを聞いているのが楽しかったが、彼女はいつの間にか、大学に来なくなった。アパートのベルを鳴らしても、出ない。ポストに手紙を入れても、彼女が連絡してくることはなかった。

 しばらくして、彼女がもう長い間、彼氏の家に泊まり込んでいたことを知った。外にも出ず、周りとも連絡をとっていなかったようだ。外出するときは常に彼氏と一緒で、離れると不安になる。体も心も、べったり依存していたらしい。

 彼女が壊れたのは突然だった。彼氏と別れ、彼女は精神病院に入院した。
 そこに何があったのか、彼女は深く語らない。

 先日、彼女に久々に会った。
 いまは子どもを産んで、仕事を休んで子育てを楽しんでいるらしい。彼女の笑顔は眩しく、相変わらず美しかった。
 その笑顔を見たとき、私の中に前述のセリフが唐突に浮かんだ。
 もし、当時の彼氏が彼女ときちんと向き合い、大学やアルバイトにきちんと通うことを薦めていたら。 私や周りが一歩踏み込んで、カウンセリングや専門医に相談をしていたら。 彼女が、相手だけでなく、自分も大切にすることができていたなら。
 たとえ別れるにしろ、発狂し、死のうとはしなかったのではないか。 そうできなかったこと、そうしてもらえなかったことが、彼女にとっての「不幸」だったのではないか?

 ああ、そっかあ。 20年間なんだかよくわからなかったところが、なんとなく、わかったような気がした。
 毎日毎日、シリーズの本を読んできた。何度読んでも飽きることはなかったのに、どうしても、その言葉の意味だけはわからなかった。 多分、こうやって年を重ねて、自分で体感しなければ、この言葉の意味はわからなかったと思う。

 小学生のときは、純粋にストーリーの面白さにどきどきしていた。
 大人になって読むと、物語やことばの一つひとつが、違う色合いを帯びてくる。まるで新しい物語を読んでいるかのように。私は夢中でページをめくる。

 実は私は小学生のとき、どうしてもあのセリフがひっかかり、作者の香月先生に手紙を出したことがある。
 あの言葉にどういう意味があるのか教えてくださいという私に、先生はご丁寧にも返信をくださった。その返信には、「いつか大人になったとき、もしかしたら、わかる日がくるかもしれないぞ。そのとき、きみはひとつ、人間として前に進んでいるだろう」と書いてあった。

 20年かかった。でも、20年かからなければ、わからなかった。
 残念なことに、原作者の香月先生は、お亡くなりになってしまった。先生、なんとなくですが、意味がわかったような気がします。こう伝えたくても、先生はもうこの世にいない。
 でも、私は胸をはっていいたい。児童文学?中二病? それがなんだ。 私はこの作品が好きだ。それで、いいじゃないか。

(1,983字)(31歳、女性)


 ●使用図書


※掲載作文の著作権は当コンクール主催者にあります。無断での転用・転載を禁じます。